備忘録的な何か

宮廷画家ゴヤは見た/ミロス・フォアマン



それは、立ち入り禁止の愛

設定とキャッチコピーだけみたら神父と異教徒の切ない系の恋愛モノかな〜と思うじゃないですか?実際にジャンル恋愛だし軽い気持ちで借りたらとんでもなく暗くて重かった。誰ですかこのキャッチコピー考えたのは。軽く詐欺ですよ。

18世紀末のスペイン動乱の時代を邦題通りゴヤの目線で、絵のモデルであった修道士ロレンゾと商人の娘イネスの人生を歴史的背景を交えながら追う形でストーリーが展開していきます。異端審問の強化やフランス革命によって支配者がころころかわるまさに激動の時代と、それに振り回された人々のお話。原題はGoya's Ghosts。なんで家政婦は見たみたいな邦題にしたんだろうね。

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吐き気を催す邪悪とはッ!なにも知らぬ無知なる者を利用することだ……!自分の利益だけのために利用することだ…!
ロレンゾはこれを地でいくドクズでいっそ清々しいほど。イネスに手を出したのも弱みに付け込んだのとそこに美少女がいたからという理由に他ならないし、イネスは地獄のような環境で唯一優しくしてくれたのがロレンゾだったから絆されただけなのではなかろうか。恋愛と呼ぶよりどちらかというとストックホルム症候群とかそっち系だと思った。実際にロレンゾはイネスのことなど忘れてのうのうと家族作って暮らしていたわけだし。異教徒として15年間も捕らえられていたイネスの心の支えの1つがロレンゾというのがなんとも皮肉。

異端審問の様子が映されたり、ナポレオン軍の侵略のシーンだったり、史実的要素が強めなぶん辛さも増す。公開処刑が娯楽でしかなかったかのような描写は衝撃的。権力が二転三転し、その度に立場が逆転するんですが上手く対比させていて面白かった。

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ラストシーンがとても好き。イネスをモデルに天使を描いた、という台詞をここに繋げてくるとは。やるせない憂鬱な映像に対してアンバランスな子供達の明るい歌声。こういう演出に本当に弱い。

他の方のレビューを見ると8割くらいの確率でナタリー・ポートマンの演技がすごい、と言われているのですが本当に圧巻。拷問もされちゃうし精神病人収容所にも入っちゃう。ロレンゾ役の俳優さんもひけをとらず演技すごかったです。絶妙な気持ち悪さ。既視感のある気持ち悪さ。多分フロロー判事。

すごい文句ばっか言ってるように見えるけどとてもいい映画でした。全編通して胸糞悪いし救いはないから見た後に幸せな気分にはなれないけども、ある意味でのハッピーエンドという解釈も結構あるみたいですし。いわゆるメリーバッドエンド。スペインの歴史とか、ゴヤがどんな作品を残しているかを把握してから見たらより理解できるし楽しめるんじゃないかな。ちなみに私はゴヤの絵は我が子を食らうサトゥルヌスしか知りませんでした。
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最初に見たスペイン映画がパンズラビリンスなせいでスペイン映画に対するグロイメージがそのままスペインのイメージに繋がってたんですが、それがますます色濃くなりましたとさ。ちゃんちゃん。